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そのデータは何で、どれを正とするか

解説約8分で読めます

仕組みが扱うのはデータです。そしてデータの決め事は、作った後から変えにくいものです。画面や文言は後で直せますが、履歴を残さない作りで始めれば、後から「そのときどうだったか」はさかのぼれません。記録の持ち方を後から変えるのも、それまでの記録の全部を直す作業になります。だから6つの問いの中で、この問いはとくに「作る前に決める」側にあります。

この記事は、実務編の3つ目の問いを扱います。作る前に考える4つの問いの、三つ目です。「業務は整っているか」で言葉にした業務について、何を正しいデータとして扱うかを決めます。

経営者が、データの設計をすべて理解して自分で行う必要はありません。自社で決めるのは、業務として答えられる四つのことです。食い違ったら、どれを正しいものとするか。後から「そのときどうだったか」を説明する必要があるか。データはどこから来るか。どこへ渡すか。 この四つが決まっていれば、それを壊れにくい形にする方法は、作る人・詳しい人に確認できます。

食い違ったら、どれを正しいものとするか

Section titled “食い違ったら、どれを正しいものとするか”

まず決めるのは、正本です。正本とは、同じ情報が複数の場所にあるとき、「食い違ったらこちらが正しい」と決めた一つの記録のことです。

勤怠管理を作ると、こんな食い違いが起きます。ある社員の所属が、人事の台帳では「営業部」、勤怠管理では「総務部」になっている。どちらに合わせるのか。正本を決めていないと、その場その場で「たぶんこちら」と直すことになり、記録の信用がなくなります。

正本は、情報ごとに決めます。たとえば、社員の氏名や所属は人事の台帳を正とし、勤怠の実績は勤怠管理の仕組みを正とする、というように決めます。同じ情報を、ExcelやGoogleスプレッドシートの表、既製のサービスなど、ほかの場所にも持つ場合は、食い違ったら正本に合わせます。

同じ仕組みの中でも、何に使う数字かで、正とする記録は変わります。勤怠なら、給与計算に使う月の実績は、打刻忘れの申請や訂正を経て上長が承認した後の記録を正とする、と決める場合があります。給与ソフトへ渡す数字は、その正本からいつでも作り直せるようにしておきます。

後から「そのときどうだったか」を説明する必要があるか

Section titled “後から「そのときどうだったか」を説明する必要があるか”

記録を直したとき、直す前の値と直した後の値、誰がいつ直したかを残すかどうか。これが履歴です。

出退勤の記録は、後から問われることがあります。退勤を押し忘れて翌朝に押してしまった、というような誤りを申請で直したとき、元の値を上書きして消してしまうと、「元は何時と記録されていたのか」「誰がいつ直したのか」が分からなくなります。労働時間の記録のように、会社として説明できなければならないデータは、上書きせず、直した履歴を残します。逆に、会議室の予約のように、直したら前の値は要らないデータもあります。

自社が決めるのは、業務として必要な範囲です。最新の状態だけ分かればよいのか。過去のある時点の状態が必要なのか。誰が何を変えたかまで必要なのか。データごとに、この三つのどこまでが要るかを決めます。履歴をどう残すかは、作る人が考えます。

仕組みの中のデータは、どこかから入ってきます。社員が手で入力するのか。今使っているExcelの表から取り込むのか。人事の台帳や既製のサービスのような、別の仕組みから受け取るのか。勤怠管理なら、出退勤の時刻は社員の打刻から、社員の一覧は人事の台帳から来ます。

入口が分かっていないと、同じ社員の一覧を二重に管理していた、という手戻りになります。社員の一覧の正本を人事の台帳にするなら、この仕組みはそれを受け取る側で、正本は持たないと決められます。どこから来る情報なのかを、業務の側が把握しておきます。

出口も同じです。仕組みが出した結果は、次に誰か、何かが使います。勤怠管理なら、集計の結果を給与ソフトへ渡し、担当者がそれを確かめます。人が確認するだけなのか、別の仕組みに取り込ませるのかで、出す形が変わります。

別の仕組みに渡すなら、相手が受け取れる形で出せることを先に確かめます。多くの業務ソフトは、CSV(表をカンマ区切りの文字にした形式。基本編の「表をテキストで渡す」で扱いました)で取り込めます。ただし、列の並びや項目名、日付の書き方は、受け取るソフトごとに決まっています。給与ソフトの取り込み形式を先に確かめておくと、給与ソフトが受け取れない形で出てきた、という手戻りが減ります。

壊れにくい形にする方法は、作る人・詳しい人に確認する

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ここまでの四つが決まれば、それを壊れにくいデータの形にする方法は、作る人・詳しい人に確認できます。経営者が自分で設計する必要はありませんが、何を確認してもらうのかは知っておきます。代表的なものは四つです。いずれも作る前に形を決めておくほうが後から直す手間が小さいので、作る段階で作る人・詳しい人に確認してもらいます。

  • 基本となる情報と、日々の記録を分けるか。 社員・商品・取引先のように繰り返し参照する基本の情報をマスター、出退勤・注文・申請のように日々増えていく記録をトランザクションと呼びます。分けておけば、所属や氏名を一か所で管理でき、変わったときも、そこを直すだけで済みます。
  • 何で人や商品を区別するか。 氏名で区別すると、同姓同名や改姓、表記のゆれで記録が混ざります。社員番号や商品コードのような、変わらない番号で区別します。これをIDと呼びます。一度決めたIDは後から変えにくいので、社員番号がすでにあるなら、それを使います。
  • 日付や数を、どんな形で持つか。 「9/1」「2026年9月1日」のように文字で持つと、そのままでは日付として正しく並べ替えたり、期間で集計したりできません。日付は日付として、時間や金額は数として持ちます。これを型と呼びます。
  • データをどこに置くか。 人が直接開いて使うExcelやGoogleスプレッドシートの表、プログラムを通して出し入れするデータベース、既製サービスの中、のどれかです。行数、同時に使う人数、誰が直接触るかで、向き不向きがあります。小さく、処理が単純な仕組みなら、表から始められる場合があります。

これらは、自社が業務上の条件を伝えれば、作る人やAIが形にできることです。集計に使う項目は何か。社員番号はあるか。誰が直接見て直すか。こうした問いに答えられれば足ります。決めたことはAIに条件として伝え、できあがった形が条件に合っているかを、作る人に確認してもらいます。

自社で決めることと、作る人が確認すること

Section titled “自社で決めることと、作る人が確認すること”
論点自社が決めること作る人・詳しい人が確認すること
正本食い違ったら、どの記録を正しいとするか(情報ごとに)正本に合わせて、ほかの場所を更新する仕組み
履歴最新だけでよいか。過去の状態や、誰が変えたかまで要るか履歴の残し方
入口どこから来る情報か。誰が入力するか取り込みの方法
出口次に誰・何が使うか。相手が受け取れる形か出力の形式
データの形と置き場業務上の条件(集計に使う項目、社員番号の有無、誰が直接触るか)マスターとトランザクションの分け方。ID。型。置き場
  • 画面から作り始める。 AIに頼むと画面はすぐ形になりますが、順番はデータが先、画面が後です。データの決め事は後から変えにくく、画面はいつでも直せるからです。
  • 今のExcelをそのまま写す。 人が見やすいように作った表は、氏名や所属が毎行に書かれ、日付が文字で入っていることが多くあります。そのまま仕組みにすると、基本の情報と日々の記録が混ざり、IDも型もない状態を持ち込みます。作る人に、今の表を壊れにくい形に作り直すところから確認してもらいます。
  • AIの作った形をそのまま受け入れる。 AIは頼まれた業務のデータの形を、それらしく作ります。ただ、正本をどれにするか、履歴が要るかは自社の事情で、伝えない限りAIは知りません。

データで自社が決めるのは、四つです。食い違ったら、どれを正しいものとするか。後から「そのときどうだったか」を説明する必要があるか。データはどこから来るか。どこへ渡すか。この四つを業務の言葉で決めれば、マスターとトランザクションの分け方、ID、型、置き場のような、壊れにくい形にする方法は、作る人・詳しい人に確認できます。データの決め事は後から変えにくいので、作る前に決めておくほど手戻りが減ります。

データが決まったら、次はそれを誰に見せ、誰に変えさせてよいかです。「誰に何を見せ、何をさせてよいか」で扱います。

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