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誰に何を見せ、何をさせてよいか

解説約7分で読めます

社内システムは、社員だけが使う仕組みです。けれど、社員なら誰でも何でも見てよく、何でも変えてよい、ということにはなりません。誰が何を見てよく、誰が何を変えてよいかを決めるのは、仕組みを作る前の判断です。そして、誰であるかを確かめる仕組みを独自に作ることと、ログインなしで開ける形で社外に置くことは、専門家に任せるべき領域です。この記事では、その線をどこに引くかを6つの論点で見ます。

この記事は、実務編の4つ目の問いを扱います。「そのデータは何で、どれを正とするか」で決めたデータを、誰に見せ、誰に触らせるかを決めます。法令の詳細や、認証の実装方法には降りません。

誰が見てよく、誰が変えてよいか

Section titled “誰が見てよく、誰が変えてよいか”

最初に決めるのは権限です。権限とは、誰がどのデータを見てよく、どれを変えてよいか、の組み合わせのことです。役割ごとに、見る・変えるの範囲を表にします。

役割見てよい範囲変えてよい範囲
社員本人自分の記録自分の出退勤の打刻、修正の申請
上長部下の記録部下の申請の承認
担当者(総務など)全員の記録と集計集計の確定、書き出し、社員の一覧の追加・変更
経営者全員の記録と集計(変えない)

勤怠管理なら、同僚の出退勤を全員が見られる必要はありません。自分の分だけ見られればよく、上長は部下の分を見て承認し、担当者は全員分を集計します。経営者だからといって、何でも変えられる必要はありません。この表が、そのままAIに渡す指示になります。「本人は自分の記録だけ見られる。上長は部下の記録を見て承認できる」と頼めば、その線で作らせられます。表がないまま頼めば、全員が全員分を見られる仕組みができあがることがあります。

誰であるかを、どう確かめるか

Section titled “誰であるかを、どう確かめるか”

権限を決めても、その人が本当にその人だと確かめられなければ、権限は意味を持ちません。これが認証です。社内システムでは、選択肢が二つあります。

方式中身気をつけること
社内アカウントと連携する会社で使っている Google や Microsoft のアカウントでログインさせる会社がアカウントを管理していることが前提。会社のアカウント以外では入れないように絞られているかを確かめる。退職者の処理も一箇所で済む
独自に持つ仕組みの中(または仕組みが使う認証サービス)に、会社のアカウントとは別のIDとパスワードを持つパスワードの保管、忘れた人への対応、漏れたときの責任を、自分たちで抱える。保管をサービスに任せても、会社のアカウントと別のIDが増える点は同じ

社員数十人の会社で、社員全員が会社のアカウントでメールを使っているなら、それと連携するのが、いちばん手堅い道です。社員が個人のアカウントでメールを使っている会社や、打刻する全員にアカウントがない場合は、連携する先がありません。その場合は、社内システムより先に、会社としてのアカウントを全員分そろえるかを決めることになります。独自にIDとパスワードを持つ仕組みも、AIに頼めば形にはなります。ただ、パスワードをどう保管するか、漏れたときどうするかまで含めて安全に作るのは、専門家の領域です。「作れる」と「安全に作れている」は別で、後者を自分で確かめる手段がないなら、独自方式は選びません。

入社のたびに使えるようにし、退職のたびに外す。「そもそも自分たちで作るべきか」で、払い続けるものの一つに挙げたアカウントの管理です。この作業は、仕組みが動き続ける限りなくなりません。退職者が退職後も社内システムを開ける状態は、外に出してはいけない情報が外にある状態と同じです。

社内アカウントと連携していれば、会社のアカウントを止めれば、社内システムにも新しくは入れなくなります。それでも退職の手続きには「社内システムの利用を止める(権限の表からも外す)」を入れておきます。独自方式なら、この手続きが唯一の外し方です。どちらにしても、外す手順は作る前に決め、退職の手続きに組み込んでおきます。

会社として、外に出してはいけない情報は何か

Section titled “会社として、外に出してはいけない情報は何か”

「そもそも自分たちで作るべきか」では、扱う情報の慎重さで、どの業務から始めるかを選びました。ここでは、選んだ業務が扱う情報のうち、外に出してはいけないものを名指しします。顧客の情報、従業員の情報、営業に関わる情報が代表で、線の引き方は基本編の「何を渡し、何を伏せるか」と同じ考え方です。勤怠管理なら、出退勤の記録そのものが従業員の個人情報で、月末の集計は給与につながります。

個人情報には法令上の義務があり、健康の情報のように、とくに慎重な扱いを求められる種類もあります。だから、仕組みに持たせる情報は、業務に要る最小限にします。勤怠なら、氏名・社員番号・所属と出退勤の時刻で足り、住所や家族の情報は要りません。要らない情報を持たせないことが、いちばん確実な守り方です。

鍵やパスワードを、コードに書いていないか

Section titled “鍵やパスワードを、コードに書いていないか”

外に出してはいけない情報には、業務の情報のほかに、仕組みそのものが持つ秘密があります。仕組みが外のサービスを使うとき、そのサービスを呼ぶための鍵が要ります。APIキーと呼ばれる、長い文字列の合鍵です。この鍵をコードに直接書き込んでしまうと、コードを見た人全員に鍵が渡ります。コードをAIに貼り付けて相談した瞬間、鍵も一緒に外へ出ます。

AIに頼んで作ると、動かすことを優先して、鍵をコードに直書きした形が出てくることがあります。頼むときに「鍵はコードの中に書かず、コードとは別の設定として置いて」と伝え、できあがったコードに長い文字列の鍵が書かれていないかを確かめます。パスワードも同じです。

外から見える場所に置いたら、攻撃される前提でいるか

Section titled “外から見える場所に置いたら、攻撃される前提でいるか”

社内システムを、インターネット上の誰でも開ける場所に置くと、そのURLを知らない人にも見つけられます。社員だけに知らせたURLでも、見つかる前提で考えます。見つかれば、ログインを試され、弱いところを探されます。

インターネット上に置く以上、ログインの画面までは誰にでも見えます。だから社内システムは、会社のアカウントでログインした人だけが中に入れる形にします。この形なら、ログインの守りは連携先が担い、自分たちで守りを作る範囲は小さくて済みます。ログインなしで開ける形にする、独自のIDとパスワードで守る、社員以外にも使わせる。このどれかをするなら、攻撃される前提で守りを作る必要があり、専門家に任せる領域です。動かす場所の選び方は「どこで動き、誰のものか」で扱います。

  • 「社員なら見てよい」で済ませる。 社員でも、見てよい範囲は役割で違います。給与につながる集計ほど、本人と、決める立場の人以外には見せません。
  • 「Googleでログイン」を付けて安心する。 会社の外のアカウントでも入れる形になっていることがあります。会社のアカウントだけに絞られているか、社外のアカウントで開いてみて確かめます。
  • 権限を作った後で試さない。 本人・上長・担当者、それぞれの立場でログインして、見えてはいけないものが見えないかを確かめます。確かめ方は「壊れたら、間違えたら、変えるとき、どうするか」で扱います。

社員だけが使う仕組みでも、誰が何を見てよく、何を変えてよいかは、役割ごとに決めます。誰であるかの確認は会社のアカウントとの連携で済ませ、会社のアカウントだけに絞られているかを確かめます。退職者を外す手順は先に決めます。外に出してはいけない情報を名指しし、要らない情報は持たせません。鍵はコードに書きません。独自の認証と、ログインなしの外部公開は、専門家に任せます。

決めたことは、仕組みがどこで動くかで実現の仕方が変わります。「どこで動き、誰のものか」へ続きます。

最終点検: 2026年9月6日