そもそも自分たちで作るべきか
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生成AIに頼めば、社内で使う仕組みを自分たちで作れる範囲は大きく広がりました。AIと対話しながら、コードの中身を細かく見ずにプログラムを作るやり方は、バイブコーディングという俗称で呼ばれています。勤怠管理のような社内の仕組みを、経営者が自分で作った例も出てきました。けれど、「簡単に作れる」と「動かし続けられる」は別の問いです。作るべきかどうかは、作る手間ではなく、作った後に払い続けるものと、その業務が内製に向くかで決めます。
この記事は、実務編の最初の問いを扱います。対象は社員だけが使う社内システムで、前提は冒頭ページにまとめました。作る前に答えておく問いを順に並べ、向く業務を一つ選んで責任者を決めるところまで進みます。
「簡単に作れる」と「動かし続ける」の間に何があるか
Section titled “「簡単に作れる」と「動かし続ける」の間に何があるか”「作る」は、AIに頼んで、動くものが出てくるまでのことです。小さな仕組みなら、半日から数日で形になることも珍しくありません。一方「動かし続ける」は、その仕組みを業務に組み込んだあと、業務が続く限り面倒を見続けることです。業務が変われば直す。人が入れば使えるようにし、辞めれば外す。使う人が困れば誰かが応じる。土台にしているサービスの仕様が変われば追随する。壊れたら戻す。
「AIが書いたコードをどう動かすか」で、コードは書いただけでは動かず、動かす場所に置いて初めて動く、と扱いました。社内システムはその先の話です。置いて動いたところが入口で、そこから先が本番です。社員だけが使う小さな仕組みなら、作れること自体はもう疑わなくてよい段階です。認証や外部公開のように、専門家に任せるべき領域は別にあります。問うべきは、その先を引き受けられるかです。
作った後に、何を払い続けるか
Section titled “作った後に、何を払い続けるか”払い続けるものは、大きく4つです。
- 直す人の時間。 締め日が変わる、新しい雇用形態が増える、例外が見つかる。そのたびに直します。直す作業はAIに頼めますが、何をどう直すか決めて頼み、直ったか確かめる人の時間は要ります。
- ツールと環境の月額。 仕組みを動かす場所の利用料と、作る・直すためのAIツールの月額です。無料で始めても、業務で使い続けるうちに有料に移ることが多くあります。
- アカウントの管理。 入社のたびに使えるようにし、退職のたびに外す。パスワードを忘れた人に応じる。人数が少なくても、なくなりはしません。
- 属人化。 作った本人にしか分からない状態のことです。本人が忙しくなる、辞める、興味を失う。そのどれかが起きた時点で、誰も直せない仕組みになります。
このうち一番大きいのは、月額ではなく直す人の時間です。作る前に、この4つを誰が引き受けるかまで考えておくと、「作れたのに使われない」を避けられます。アカウントの管理は「誰に何を見せ、何をさせてよいか」で、属人化への備えは「特定のAI・サービス・本人がいなくても、直し続けられるか」で掘り下げます。
費用はどの桁か
Section titled “費用はどの桁か”月額の話を、桁で押さえておきます。社員数十人規模の社内システムなら、費用はおおむね3つの段階に分かれます。
| 段階 | 何が手に入るか |
|---|---|
| 無料枠で試す | 手持ちのアカウントの範囲で動かす段階。スプレッドシートとその自動化の仕組みや、有料サービスの無料枠(一定の使用量までは無料で使える範囲)で足ります。人数・容量・稼働に上限があり、しばらく使わないと止まる仕組みもあります |
| 月数千円で業務に乗せる | 動かす場所の有料プランと、作る・直す人のAIツールの有料プランを、それぞれ一人分ほど持つ段階。無料枠の上限や停止を気にせず使えるようになります |
| 月数万円で人数と信頼性を上げる | 使う人全員分のアカウント(会社のメールなどで既に持っていれば、新たには要りません)、バックアップや障害時の支えがついた上位プラン、AIツールを複数人で使う分が加わる段階 |
社員数十人の社内システムでこの桁を超えるなら、内製の理由を疑ってよい水準です。買う、外注する、と比べてみてください。無料枠から月数千円で試せることが、いまの内製の強みです。
この業務は、内製に向くか
Section titled “この業務は、内製に向くか”作る価値があるかは、業務のほうを見て決めます。次の6つの基準で、向く側と慎重になる側のどちらに多く当てはまるかを見てください。
| 基準 | 向く側 | 慎重になる側 |
|---|---|---|
| データを誰が持つか | 自社の中にある。自社のスプレッドシートや記録 | 他社のシステムの中にある。取引先から預かっている |
| 扱うデータをどれくらい慎重に扱うべきか | 外に出ても困らない。会議室の予約、備品の一覧 | 個人情報や営業秘密。顧客の連絡先、給与、取引条件 |
| 直せる人がどこにいるか | 社内にいて、時間を割ける | 作った本人だけで、本業が忙しい |
| 特殊か汎用か | 自社の運用そのもので、自社にしかない流れ | どの会社にもある業務で、既製サービスが安く手に入る |
| 壊れても業務が止まらないか | 止まっても紙やExcelでしのげる | 止まると受注・支払い・給与に響く |
| 業務を自分で言葉にできるか | 誰が・いつ・何を見て・何を決めるかを説明できる | 例外が多く、担当者の頭の中にしかない |
2つ目の基準は、扱う情報の性質で慎重さを変える、ということです。考え方は「何を渡し、何を伏せるか」と同じで、社内システムでは、外に出ても困らない情報、社内限りの情報、個人情報や営業秘密の順に慎重になります。外に出ても困らない情報を扱う仕組みなら、積極的に作ってみてよいと言えます。同じ個人情報でも、漏れて困る相手の範囲は違います。社員の出退勤の記録は、住所や給与、健康の情報まで持たせなければ、漏れて困る相手は社内にとどまります。個人情報には違いなく、会社としての法令上の義務もあります。それでも、顧客や取引先の情報が漏れて相手に迷惑が及び、信用に直結する場合とは、影響の及ぶ範囲が違います。
勤怠管理は、内製に向くか
Section titled “勤怠管理は、内製に向くか”冒頭の勤怠管理を、6つの基準に当ててみます。
| 基準 | 勤怠管理では | 見立て |
|---|---|---|
| データを誰が持つか | 社員の出退勤の記録は、自社の中にある | 向く |
| 扱うデータをどれくらい慎重に扱うべきか | 社員の個人情報。住所・給与・健康の情報を持たせなければ、漏れて困る相手は社内にとどまる | 慎重に扱えば可 |
| 直せる人がどこにいるか | 作った本人だけになりがち | 弱い |
| 特殊か汎用か | どの会社にもある業務。既製のサービスが一人あたり月数百円で手に入る | 弱い |
| 壊れても業務が止まらないか | 一時的には紙やExcelでしのげるが、月末の締めと給与計算につながる | 直すまでの時間に上限 |
| 業務を自分で言葉にできるか | 就業規則と締め日があり、言葉にしやすい | 向く |
つまり勤怠管理は、白黒ではなく、どの基準が弱いかを知って始める業務です。弱い基準は、あとの問いで備える場所になります。直せる人が一人なら「特定のAI・サービス・本人がいなくても、直し続けられるか」で、止まったときの上限は「壊れたら、間違えたら、変えるとき、どうするか」で備えます。汎用なのに内製するなら、直行直帰や現場ごとの締めなど自社の運用に合わせたい、まず一つ作って学びたい、といった理由を言葉にしておきます。月末の給与へつながる業務なので、やるなら今のやり方と並行して動かし、合うことを確かめてから切り替えます。
対照として、会議室や社用車の予約は、どの会社にもある業務ではあるものの、情報は外に出ても困らず、止まっても声をかければ済みます。既製の機能で足りるならそれでよく、自社の使い方に合わせたいところがあるなら、最初の一つに向きます。顧客の連絡先や取引条件を扱う案件管理は、慎重になる側が並ぶので、最初の一つにはしません。
内製しないなら、どうするか
Section titled “内製しないなら、どうするか”向かないと分かったら、出口は3つあります。比べて選ぶというより、業務の性質で自然に決まります。
- 買う。 どの会社にもある業務なら、既製のサービスを月額で使うのが早く、法令や制度の変更への追随も、サービス側の仕事になります。
- 外注する。 自社特有の業務だが、自分たちで直し続ける時間がないなら、作る人に頼みます。作って終わりでなく、直す契約まで含めて結びます。
- ノーコードで組む。 ノーコードとは、kintoneのように、プログラムを書かずに画面の操作で業務アプリを組み立てられるサービスのことです。内製したいがコードを持ちたくないなら、この道があります。作ったものがそのサービスの中に閉じる点は、内製と同じ目で見ます。
この仕組みに責任を持つのは誰か
Section titled “この仕組みに責任を持つのは誰か”作る前に決めることの一つ目が、これです。責任者とは、業務が変わったときに直すと決める人、使う人が困ったときの窓口になる人、月額を払い続けるかを判断する人のことです。社員数十人の会社なら、たいてい経営者自身か、その業務をいちばん分かっている一人になります。
責任者のいない仕組みは、作った瞬間から誰のものでもなくなります。動いているうちは気づかず、直す必要が出た日に、誰も手を出せないと分かります。ここでいう責任は運用の責任です。アカウントや契約やコードが会社のものか個人のものかという資産の帰属は、「どこで動き、誰のものか」で扱います。
最初に、どの一つの業務から始めるか
Section titled “最初に、どの一つの業務から始めるか”作る前に決めることの二つ目です。6つの基準で向く側が多く並ぶ、小さな業務を一つ選びます。とくに、扱う情報が外に出ても困らないことと、止まっても困らないことの2つを満たしていれば、どの会社にもある業務でも構いません。会議室や社用車の予約、備品の貸出などが候補になります。
内製に向く業務は、手順の決まった定型の仕事です。基本編の「プログラム・AI・人に振り分ける」で、定型の仕事はプログラムの領分だと扱いました。社内システムとは、その定型を自社の形で固めたものです。
つまずきやすいところ
Section titled “つまずきやすいところ”- 「作れた」を「動かし続けられる」と取り違える。 動くものができたのは入口です。払い続けるもの4つを引き受ける人がいて、初めて業務に乗ります。
- 月額だけを費用と思う。 無料枠で動かしていても、直す時間はただではありません。
- 汎用の業務を、勉強のために作る。 学びの題材と割り切り、本番に乗せるかは別に判断します。
- AIに「作るべきか」を訊いてしまう。 「作れるか」と訊けば、作れる方向の答えが返りやすいものです。向くかどうかを決める材料は、データがどこにあるか、直せる人がいるか、業務が特殊かといった自社の中の事情で、渡さない限りAIは知りません。材料を渡して整理を手伝わせるのはよくても、決めるのは人です。「優秀だが自社を知らない新人」に、会社の方針を決めさせないのと同じです。
「簡単に作れる」と「動かし続けられる」は別の問いです。作るべきかは、作る手間ではなく、作った後に払い続けるもの4つと、その業務が内製に向くか6つの基準で決めます。向かないなら、買う・外注する・ノーコードで組む。そして作る前に、責任者と最初の一つの業務を決めます。
作ると決めた業務は、次に、その業務そのものが整っているかを問います。「業務は整っているか」で扱います。7つの問いの全体は冒頭ページにあります。
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最終点検: 2026年9月6日
出典: さとりのしょ — https://satorinosho.jp/practice/should-we-build/