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業務は整っているか

解説約6分で読めます

作ると決めた業務は、作る前に整えます。AIはプログラムを書けますが、その業務をどうしたいかは決められません。誰が、いつ、何を見て、何を決めているか。例外をどう扱っているか。それを言葉にできるのは、その業務を回している自社の人だけです。受発注や見積もりのように複雑な業務ほど、作る作業の大半は、この「業務を言葉にする」ことで占められます。

この記事は、実務編の2つ目の問いを扱います。「そもそも自分たちで作るべきか」で選んだ一つの業務を、仕組みにする前に整えるための6つの問いを、順に並べます。要件定義や業務フロー図といった、システム開発の専門的な手法や書き方には降りません。

そもそも、この業務はやめられないか

Section titled “そもそも、この業務はやめられないか”

最初の問いは、「どう作るか」ではなく「やめられないか」です。仕組みにすると、その業務は固まります。紙のときは現場の判断で省けた手順も、仕組みに入れた瞬間、毎回必ず通る道になります。だから作る前に、まずやめられる業務と、減らせる手順を落とします。

勤怠管理なら、出退勤の記録そのものはやめられません。労働時間を把握して記録を残すことは、会社に求められています。何を残すべきかは法令で決まっているので、減らす前に迷えば、社会保険労務士などの専門家に確かめます。けれど、その周りには減らせる手順がついています。タイムカードの数字を紙の日報に写す、紙の日報をExcelに打ち直す、Excelの合計を電卓で検算する。今の手順をそのまま仕組みに写すと、この転記の画面まで作ることになります。仕組みにする前に、この二重三重の転記と確認を落とせば、作るものは小さくなり、直す手間も減ります。

誰が、いつ、何を見て、何を決めているか

Section titled “誰が、いつ、何を見て、何を決めているか”

残った業務を、流れとして言葉にします。基本編の「仕事を分解する」では、仕事をステップに区切り、各ステップを入力・作業・出力に分けました。「何を見て」が入力、「何をする」が作業と出力にあたります。社内システムでは、そこに「誰が」「いつ」を足し、作業のうち「何を決めるか」をはっきりさせます。誰が・いつ・何を見て・何を決めるか。仕組みは、この4つが決まっていないと作れません。

誰がいつ何を見て何をする・決める
社員その日のうちに自分の出勤・退勤時刻を記録する
上長翌営業日まで部下の記録抜けや誤りを確かめ、承認する
担当者締め日の翌日全員分の記録集計して、給与計算に渡す
経営者月に一度集計の結果残業の多い人への対応を決める

書けない箇所があれば、そこはまだ言葉になっていない業務です。

業務の本体より、例外のほうが仕組みを難しくします。ふだんの流れは誰でも言えますが、例外は担当者の頭の中にだけあることが多いからです。例外が言葉にできないなら、まだ作れません。 作ってから見つかる例外は、そのたびに直す時間として、払い続けるものに加わります。

勤怠管理の例外を挙げてみます。

  • 打刻を忘れた。後から本人が申請し、上長が認める
  • 直行・直帰で、会社の端末では打刻できない
  • 日をまたぐ勤務。退勤が翌日の日付になる
  • 半日の休暇や、時間単位の休暇
  • 記録が間違っていた。後から直す必要がある

例外を言葉にすると、二つのことが決まります。一つは、その例外を仕組みで受け止めるか、人が処理するか。もう一つは、仕組みができたときに「この例外でも正しく動くか」を確かめる項目です。確かめ方は「壊れたら、間違えたら、変えるとき、どうするか」で扱います。

どこまでをこの仕組みが担い、どこからは人がやるか

Section titled “どこまでをこの仕組みが担い、どこからは人がやるか”

流れと例外が言葉になったら、仕組みと人の境界を引きます。先ほどの表の「何をする・決める」の列を見ると、記録する・集計するは仕組みに、確かめる・決めるは人に、と自然に分かれてきます。基本編の「プログラム・AI・人に振り分ける」と同じで、手順の決まった定型の部分を仕組みに任せ、判断と責任を人に残します。

工程担うのは
出退勤の時刻を記録する仕組み
打刻忘れの申請を受け付ける仕組み
申請を認めるかを決める人(上長)
月の労働時間を集計する仕組み
集計の結果を確かめる人(担当者)
給与計算に渡す形で出力する仕組み

境界を先に引いておくと、AIに頼むときの指示が具体的になります。「勤怠管理を作って」ではなく、「記録と集計と出力をする仕組みを作って。申請を認める判断は人がするので、承認の欄を用意して」と頼めます。

今のやり方の何を変えず、何を変えるか

Section titled “今のやり方の何を変えず、何を変えるか”

紙やExcelで回ってきた業務には、理由があって残っている手順があります。締め日、承認の順番、集計の単位。これらを仕組みの都合で変えると、現場が混乱します。変えないものを先に決め、変えるものを最小にします。

勤怠管理なら、締め日と承認の流れは変えません。変えるのは、記録の方法(紙やタイムカードから、仕組みへの直接の入力へ)と、集計の方法(手作業から自動へ)です。変えないものが決まっていれば、AIに「今の締め日と承認の流れはそのままで」と伝えられます。

最後に、作らないものを決めます。作るものの一覧より、作らないものの一覧のほうが、仕組みを小さく保ちます。作り始めると、「ついでにこれも」が必ず出てくるからです。

勤怠管理なら、たとえばこう決めます。給与の計算はしない(給与ソフトに渡すところまで)。シフトの作成はしない。有給休暇の残日数の管理はしない(休暇を取った記録は残すが、残りの日数は数えない)。作らないと決めたものは、後から必要になれば、そのとき別に考えます。

  • AIに業務を決めさせようとする。 「勤怠管理の仕組みを作って」と頼めば、AIは一般的な勤怠管理を組み立てるか、こちらの事情を尋ね返してきます。どちらにしても、自社の締め日も、承認の順番も、例外も知りません。決めるのは自社で、AIには決めたことを渡します。
  • 例外を後回しにする。 普通のケースから作るのは構いませんが、例外を知らないまま作り始めると、見つかるたびに直すことになります。全部を仕組みに入れる必要はありませんが、言葉にはしておきます。
  • 整える作業を重く考える。 手法も図も要りません。誰が・いつ・何を見て・何を決めるかを、箇条書きで書き出せば十分です。複雑な業務では量は増えますが、やることは変わりません。書き出したものは、そのままAIに渡す材料になります。

作る前に、業務を整えます。やめられる業務と減らせる手順を落とし、残った業務を「誰が・いつ・何を見て・何を決めるか」で言葉にし、例外を書き出し、仕組みと人の境界を引き、変えないものと変えるものを決め、作らないものを決めます。ここまでできて初めて、AIに渡せる形になります。

次は、その業務が扱うデータの話です。同じ情報が複数にあるときどれを正とするか、何を記録するかは「そのデータは何で、どれを正とするか」で扱います。

最終点検: 2026年9月6日