著作権をめぐる3つの論点
解説
AIに作らせた文章や画像を、そのまま仕事で使ってよいのか——。この問いの根っこには、著作権があります。生成AIは、人が書いた大量の文章や、描かれた画像を学習して、新しいものを作り出します。だから著作権は、AIに何かを学ばせる「入口」と、できたものを使う「出口」の両方で関わってきます。
業務でAIを使うなら、細かい法律を覚える必要はありません。まず「どこで著作権が関わるのか」という地図を持っておけば十分です。本記事では、その地図を3つの論点として示します。なお、何が許されて何が許されないかの線引きは、時期や国、個別のケースで変わります。大きな判断が要る場面では、専門家に確認してください。
なぜAIに著作権がついて回るのか
Section titled “なぜAIに著作権がついて回るのか”生成AIは、大量の文章や画像を読み込んで、その並び方やパターンを覚えています。これを「学習」と呼びます(くわしくは 生成AIとは何か)。
ここで使われる材料には、人が書いた記事、撮った写真、描いたイラストなど、誰かが著作権を持つものが大量に含まれます。AIは、それらから学んだパターンをもとに、新しい文章や画像を作ります。
つまりAIは、その出発点からして「他人の作ったもの」と無関係ではいられません。だから著作権は、特別な使い方をしなくても、AIを使う限りどこかでついて回ります。まずは全体像を、入口から出口までの流れで見てみましょう。
著作権が関わる3つの論点
Section titled “著作権が関わる3つの論点”あなたの立場から見ると、論点は大きく3つに分かれます。入口に1つ、出口に2つです。
① 入れる側——自分や他人の作品が学習に使われる
Section titled “① 入れる側——自分や他人の作品が学習に使われる”1つめは、AIに「入れる」側の話です。世の中の文章や画像が、AIの学習材料として使われています。そこには、あなたや自社が作ったものが含まれることもあります。
「自分の書いたものが、知らないうちにAIの材料にされていないか」——そう感じる人もいるでしょう。このうち、自分がチャットに入力した内容が学習に使われるかどうかについては、話したことのゆくえ でくわしく扱っています。あわせて、世の中の著作物をAIの学習に使うこと自体については、日本では今のところ比較的広く認められています。ただし、それをどこまで認めてよいかは、世界的にも議論が続いています。ここでは「入口にも著作権の論点がある」と押さえておけば十分です。
② 出す側——生成物が、誰かの作品に似てしまう
Section titled “② 出す側——生成物が、誰かの作品に似てしまう”2つめは、AIが「出した」ものを使う側の話で、業務でいちばん身近なリスクです。
AIは既存の作品を学習しているため、作らせたものが、世の中にある誰かの作品によく似てしまうことがあります。たとえば、AIに作らせたチラシの図案が既存のイラストにそっくりだった、商品説明のコピーが有名な一文に似ていた——こうしたことが起こりえます。似たものをそのまま世に出せば、相手の著作権を侵害してしまうおそれがあります。
だから、AIの出力をそのまま使う前に、「これは誰かの作品に似ていないか」と一呼吸おく習慣が要ります。とくに、ロゴ・図案・キャッチコピーのように、それ自体が「作品」としての色が濃いものは注意が要ります。一方、社内メールの下書きや議事録の整形のように、ありふれた言い回しで済むものは、神経質になりすぎなくてかまいません。
③ 生成物の権利——AIが作ったものは、誰のものか
Section titled “③ 生成物の権利——AIが作ったものは、誰のものか”3つめは、AIが作ったものに、そもそも著作権が認められるのか、という話です。
著作権は本来、人が創作したものを守る仕組みです。そのため、人の手がほとんど入らず、AIにまかせきりで作ったものは、自社の著作物としての権利を主張しにくい場合があります。たとえば、AIに一言頼んで出てきたロゴをそのまま使った場合、あとから他社に似たものをまねされても、「これは自社のものだ」と強くは言いにくいことがあります。
逆に言えば、人がどれだけ考え、選び、手を加えたかが効いてきます。AIをたたき台として使い、自分たちの判断で練り上げたものは、権利の面でも立場が違ってきます。「AIに作らせて終わり」にしないことが、結果として自社の財産を守ることにもつながります。
よくある誤解
Section titled “よくある誤解”最後に、つまずきやすい思い込みを2つ。
- 「AIが作ったものは、自由に使える」とは限らない。 ②のように誰かの作品に似ていれば侵害になりうるし、③のように自社の権利が弱いこともあります。「AIが作った=権利関係がまっさら」ではありません。
- 白か黒か、すぐに決まるわけではない。 著作権は、もともとグレーな判断を含む分野です。AIが関わるとなおさらで、ルールや解釈は国や時期によって変わっている最中です。「これは合法」「これは違法」と言い切る情報を、うのみにしないことです(AIに尋ねた答えも同じで、確かめる姿勢が要ります → 悪気なく嘘をつく)。
AIは他人の著作物を学習して、新しいものを生み出します。だから著作権は、学習という「入口」と、生成物を使う「出口」の両方で関わります。論点は3つ——入口で ①学習に使われること、出口で ②誰かの作品に似てしまうこと、③作ったものの権利が弱い場合があること。
業務で大事になるのは、出口の②と③です。AIが出してきたものを世に出す前に一呼吸おき、人の判断を重ねること。そして、線引きが問題になる大きな場面では、専門家に確認すること。この地図を持っておけば、AIを必要以上に怖がらず、かといって無防備にもならずに使えます。
なお、「では実際の業務で、AIにどこまでの情報を入れてよいのか」という線引きは、また別のテーマです。これは「何を渡し、何を伏せるか」で扱っています。