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抽象と具体を行き来する

解説約6分で読めます

AIの答えがしっくりこないとき、情報を足して頼み直すだけが方法ではありません。誰のためか、何のためか、どんな状況か——背景を足すのは正しいやり方ですが、もう一つ、問いの抽象度を上げるか、下げるというつまみがあります。動かすと、返ってくるものが変わります。

上げれば、こちらから一般論として聞くことになります。下げれば、具体を足して絞ることになります。この記事では、どんなときに上げ、どんなときに下げるか、そして手応えを見ながら行き来する感覚を扱います。

同じ困りごとでも、問いの抽象度は変えられる

Section titled “同じ困りごとでも、問いの抽象度は変えられる”

たとえば、不動産会社で住宅の売買仲介をしていて、内見のあとに話が進まないことが多い、という困りごとがあるとします。これをAIに相談するとき、問いの立て方は一つではありません。自社のことをそのまま聞く。住宅や車のような、高額でじっくり比較して決める商品の営業として聞く。営業一般の話として聞く。どれも同じ困りごとについて聞いていますが、問いの抽象度が違います。

背景を足す——コンテキストを渡す——のは、同じ抽象度のまま、自社の事情を詳しく伝えることです(「指示と背景をセットで渡す」)。抽象度を変えるのは、問いをどのくらい一般的な話として聞くかを変えることです。二つは別のつまみで、どちらも答えを変えます。

なぜ抽象度を変えると答えが変わるのか

Section titled “なぜ抽象度を変えると答えが変わるのか”

AIは、一般的な営業の型については答えやすい一方、自社固有の事情については、こちらから伝えないと分からないことが多くあります(「優秀だが自社を知らない新人」)。一般的な営業について書かれた多くの情報をもとに学習しているからです。

だから、自社のことをそのまま聞いて事情が足りないと、AIは限られた手がかりから答えを組み立てることになります。渡した細部に引っ張られたり、当たり障りのない答えになったりすることがあります。抽象度を上げて一般的な型を聞けば、AIが答えやすい問いになります。逆に、抽象度が高いままでは答えも一般論のままで、どの型が自社に当たるかまでは決まりません。そこで具体を足せば、答えは絞られます。

事情を言葉にできないときは、抽象度を上げる

Section titled “事情を言葉にできないときは、抽象度を上げる”

上げるきっかけは、二つあります。

  • 自社の事情をうまく説明できない、まだ整理できていない。 何が問題かを言葉にできないうちは、どんな背景を渡せばよいかも分かりません。そんなときは、いったん抽象度を上げて「この種の場面で、よくある原因は何か」と聞きます。返ってくるのは答えそのものではなく、原因の候補や確かめる観点——つまり型です。
  • 具体的に聞いているのに、細部に引っ張られて手応えがない。 渡した事情のどこか一点に答えが寄っていき、そこから離れません。渡した細部は正しくても、それが原因とは限りません。抽象度を上げて聞き直すと、個別の事情から離れて、ほかに考えられる原因や観点が出てきやすくなります。

答えが教科書的なときは、抽象度を下げる

Section titled “答えが教科書的なときは、抽象度を下げる”

返ってきた答えが広すぎて、どこにでも当てはまる話にしか見えないなら、抽象度を下げます。業種や商品の種類、相手などを加えて、問いの対象を少しずつ絞ります。抽象度を上げて得た型の中に「うちはこれかもしれない」と思うものがあれば、その点を自社の事情と結びつけて、もう一度具体的に聞きます。この動きが、一般論を自社に寄せる下げ方です。

先ほどの困りごとを、三つの抽象度で聞いてみます。営業一般と自社の具体、その中間を段のように並べて、返ってくるものを比べます。

段問いの例返ってくるもの
営業一般営業で、提案のあとに商談が止まるのは、一般にどんな原因が多いか教科書的な一般論。広いが、自分では気づいていなかった原因を探すには役立つ
間の段住宅や車のように高額で、じっくり比較して決める商品の営業で、実物を見せたあとに商談が止まる原因は何か場面に合った型。原因の候補と、確かめる観点
自社の具体うちでは、内見のあとに話が進まないことが多い。原因は何か事情を渡せていれば、自社に合った見立て。渡せていないと、細部に引っ張られたり、当たり障りのない答えになったりする

たとえば、こんなふうに行き来できます。自社のことをそのまま聞いて手応えがなければ、まず営業一般まで抽象度を上げてみます。返ってきた答えが広すぎれば、間の段に下げます。ここで、「家族など一緒に決める人の合意がまだ取れていない」「比較している他の候補との違いが伝わっていない」「次に会う約束をせずに別れている」といった型が返ってきたとします。この中に自社にも当てはまりそうなものがあれば、その点を加えて、もう一度自社の話として聞きます。そのときの問いは、たとえばこうなります。

住宅の売買仲介です。内見のあと、次に会う約束をせずに別れることが多いと分かりました。内見の終わりに、次の約束を自然に取る言い方を考えてください。相手は初めて家を買うご夫婦で、他の物件も見ています。

いったん大きく一般化してみても構いません。 広すぎたら、そこから絞ればいい。抽象度を変えてみて、返ってくる答えを見る。この往復が、抽象と具体を行き来するということです。

  • 上げることと、曖昧にすることは別です。 「営業を強化したい」は、抽象度が高いのではなく、問いがまだ決まっていないだけです。抽象度を上げても、何を知りたいかは、「提案のあとに商談が止まる原因は何か」のように、はっきりさせたままにします。
  • 抽象度を変えれば、事情を渡さなくてよいわけではありません。 抽象度を上げて得た型は候補にすぎず、どれが自社に当たるかは、自社の事情を足して絞るときに決まります。必要な背景を伝えるという基本は、変わりません。

答えがしっくりこないとき、情報を足して頼み直すだけが方法ではありません。事情を言葉にできないときや、細部に引っ張られているときは、問いの抽象度を上げて、こちらから一般論として型を聞く。答えが教科書的なら、具体を足して抽象度を下げる。抽象度を変えながら、返ってくる答えを見て調整する。その行き来で、一般論を自社の問いに近づけていきます。

背景の中身は「指示と背景をセットで渡す」で、AIが自社を知らない理由は「優秀だが自社を知らない新人」で扱っています。

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